お寺で宿泊施設をはじめるには|住宅宿泊事業法編
前回は、旅館業法については触れていきました。今回は宿泊施設をはじめる上でもう1つの選択肢となる住宅宿泊事業法についてご紹介します。いわゆる民泊と呼ばれるものがこの法律に基づきます。新しくできた法律であることから民泊新法とも呼ばれています。
近年新たにオープンしているお寺での宿泊施設は旅館業法に限らず、この住宅宿泊事業法に基づいてオープンしているケースも増えています。まずは住宅宿泊事業法について確認しつつ、旅館業法となにが違うかについても見ていきましょう。
※あくまで大枠での基準であるため、個別の事案においてすべてこのケースで開業できるわけではありませんので、実際に開業を検討される方は専門の方へご相談ください。
住宅宿泊事業法とは
住宅宿泊事業の定義について確認をしていきます。国土交通省のページでは以下のように記載されています。旅館業法の管轄省庁は厚生労働省でしたが、こちらの住宅宿泊事業法は国土交通省(観光庁)となります。
住宅宿泊事業法は、急速に増加するいわゆる民泊について、安全面・衛生面の確保がなされていないこと、騒音やゴミ出しなどによる近隣トラブルが社会問題となっていること、観光旅客の宿泊ニーズが多様化していることなどに対応するため、一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図るものとして、新たに制定された法律で、平成29年6月に成立しました。
住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?
住宅宿泊事業法と旅館業法の違い
さらに細かい違いはありますが、大枠の定義の比較のみしてみましょう。総合的にみれば旅館業法で営業許可が取得できる場合、認可取得ハードルは高くても長期的な運用面からみれば、旅館業で取得するのがよいでしょう。
旅館業 | 住宅宿泊事業 | |
---|---|---|
営業日数制限 | 365日 | 180日 |
用途地域 | 制限あり | 大枠制限なし |
建物の用途 | 旅館※200㎡以下は変更不要 | 居宅・庫裏等※200㎡以下は変更不要 |
フロント | 要(簡易宿所は不要) | 不要 |
許認可 | 許可 | 届出 |
市街化調整区域での開業 | 原則不可 | 可※ |
委託の必要有無 | 不要 | 不在型or5室以上の場合必須 |
消防要件 | 宿泊施設5項(イ) | 同居型:一般住宅 不在型:宿泊施設5項(イ) |
住宅の定義等
本来、事業用用途ではない住宅を事業として活用するのが、住宅宿泊事業法です。ですので、この住宅とはなんなのかが定義されています。
宿泊営業の実施に当たっては、原則、旅館業法に基づく許可が必要となりますが、住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をした者は、旅館業法第3条第1項の規定にかかわらず、住宅宿泊事業を営むことができます。「住宅宿泊事業」とは、旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が180日を超えないものとされています。
また、「住宅」とは次に掲げる設備要件と居住要件を満たしている必要があります。 住宅の定義等
この住宅には2つの要件がかされています。
- 設備要件
- 「台所」
- 「浴室」
- 「便所」
- 「洗面設備」
- 居住要件
- 「現に人の生活の本拠として使用されている家屋」
- 「入居者の募集が行われている家屋」
- 「随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋」
住宅宿泊事業法で事業を行える地域
旅館業法で行うか、住宅宿泊事業法で行うかで、事業を行える地域も異なってきます。基本的にはまず旅館業法で行えるかを確認し、不可能であった場合、住宅宿泊事業法での実施を検討するのがよいでしょう。ですが、住宅宿泊事業法で行う場合、上記のように年間で営業日数制限があるため、その場所でなければいけない理由がない限りは慎重に検討する必要があります。
用途地域 | 旅館業法としての可否(簡易宿所の場合) | 民泊新法としての可否 |
第一種低層住居専用地域 | × | ○ |
第二種低層住居専用地域 | × | ○ |
第一種中高層住居専用地域 | × | ○ |
第二種中高層住居専用地域 | × | ○ |
工業地域 | × | ○ |
工業専用地域 | × | × |
田園住居地域 | × | ○ |
第一種住居地域(3000㎡以下) | ○ | ○ |
第二種住居地域 | ○ | ○ |
準住居地域 | ○ | ○ |
近隣商業地域 | ○ | ○ |
商業地域 | ○ | ○ |
準工業地域 | ○ | ○ |
住宅宿泊管理業者へ委託しなければいけないケース
本来住宅として利用されている建物を活用するので、事業用用途ではありません。そのため規模が大きくなるケースや、そもそも居住していない住居に関しては制限がかけられており、住宅宿泊管理業者に委託をすることが義務付けられています。
住宅宿泊管理業者とは
住宅宿泊事業者から、法第11条第1項に規定する委託を受けて、報酬を得て、住宅宿泊管理業務を行う事業をいいます。住宅宿泊管理業務とは、法第5条から第10条までの規定による業務及び住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅の維持保全に関する業務をいいます。 住宅宿泊管理業者編
上記のように定義されています。もともとは住宅を扱うという観点から、観光側面ではなく、住宅宿泊管理業者は不動産側面での定義付けがなされていました。ですが、実際は小規模ホテル・旅館というに近く、宿泊者の集客や現場の運営、オペレーション等を考えると不動産事業者では経験がないケースが多く、うまく回っていないケースも散見されました。住宅といえども宿泊業です。不動産業ではないので、ノウハウが全く違います。そういった観点を踏まえて、昨今この住宅宿泊管理業が指定機関が行う講習を受講することで、資格取得することができるようになり、登録要件が大幅に緩和されました。
委託要件
住宅宿泊事業者は、次のいずれかに該当する場合は、住宅宿泊管理業務(法第5条から第10条までの規定による業務及び住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅の維持保全に関する業務)を住宅宿泊管理業者に委託する必要があります。ただし、住宅宿泊事業者が住宅宿泊管理業者である場合において、自ら住宅宿泊管理業務を行う場合については委託不要です。
1.届出住宅の居室の数が、5を超える場合
2.届出住宅に人を宿泊させる間、不在(※1)となる場合(※2)
- (※1)日常生活を営む上で通常行われる行為に要する時間の範囲内の不在は除く
- (※2)住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなくてもその適切な実施に支障を生ずるおそれがないと認められる場合として以下のいずれをも満たす場合は除く
- [1] 住宅宿泊事業者が自己の生活の本拠として使用する住宅と届出住宅が同一の建築物もしくは敷地内にあるとき又は隣接しているとき
(住宅宿泊事業者が当該届出住宅から発生する騒音その他の事象による生活環境の悪化を認識することができないことが明らかであるときを除く)- [2] 届出住宅の居室であって、それに係る住宅宿泊管理業務を住宅宿泊事業者が自ら行うものの数の合計が5以下であるとき
なお、住宅宿泊管理業務の委託は、住宅宿泊管理業務の全部を契約により委託する必要があります。また、委託しようとする住宅宿泊管理業者に対し、予め届出書および添付書類の内容を通知する必要があります。 管理業務の委託について
上記の通り、居室数と居住要件が判定基準となります。お寺で実施することを考える場合、居室数が5を超えるケースは少ないかと思いますが、不在型になりえるケースは十分にあるでしょう。また、境内にある離れは運営主体がどこになるかにもよりますが、同居型を捉えることも可能です。(ただし、消防は別)
住宅宿泊事業法に基づいて開業したお寺の宿泊施設
実際に住宅宿泊事業に基づいて新たにお寺で宿泊施設を開業した事例をご紹介します。